先日、WHO(世界保健機関)は、ゲーム依存症を『ゲーム障害』として正式な病気として分類しました。
つまり、病気として、予防や治療法の確立を急いで対応しなくてはいけないと警鐘を鳴らしているのです。
そこで、今回はWHOの発表に合わせて、ゲーム障害の原因や予防法、治療法などのまとめをご紹介しますね。
チェックリストもご紹介するので、ぜひご参考ください。
そもそもゲーム依存症…改め、ゲーム障害とは?
依存症とは、特定のものに心を奪われ、やめたくても止まらない状態です。
大きく2つに分けられ、【物質依存】と【プロセス依存】とあります。
物質依存は、アルコールや薬物などの物質への依存です。
プロセス依存は、ある行為や過程に対してのめり込んでしまうもので、ゲーム障害はこちらに含まれる依存症とです。
さて、ゲーム障害とは、生活に支障が出るほどテレビゲームなどに熱中する病気のことです。
インターネットの普及やゲーム産業の発展の違いなどによって国ごとに差がありますが、有病率(病気になっている人の割合)の比較は以下のようになります。
日本・・・8.1%(2013年)
韓国・・・12.4%(2010年)
このほか、中国、アメリカ、イギリス、ノルウェイなども8%台、ドイツ、オランダなどは3%台となっています。
日本では、中高生のうち約50万人が依存症に陥っていると推計されているのです。
8パーセントという値は、決して少ない値ではないのです。
また、今回、病気として認定され、明確な診断基準が設けられることで、この値よりもっと多くの方がゲーム障害と診断されると予測されています。
ゲーム障害の主な症状とは?
それでは、ゲーム障害とはどのような症状が出るのでしょうか。
以下に症状一覧を示します。
- ゲームにとらわれてしまい、頭から離れなくなる。
- 一旦ゲームを始めると、なかなかやめられないなど、コントロールができない。
- 長時間使用しないと、満足感が得られない。
- ゲームをしない時間が長いと、イライラ、無気力になる。
- 気持ちが落ち着かない時やイライラする時の解消方法として、まずはゲームを選択する。
- やめようと決意しても、やめられない。
そして、こうしたゲーム障害が引き起こす2次障害の具体例が以下の通りです。
早くからネット依存の問題に取り組んできた国立病院機構久里浜医療センターの事例です。
- 欠席・欠勤が59%
- 引きこもりが33%
- 物に当たる・壊すが51%
- 家族に対する暴力が27%
- 朝起きられないが76%
- 昼夜逆転が60%
この結果、12%が退学・放校となり、7%が失職しているそうです。
このように、やめようにもやめられない状態となって、生活に障害が出ることで、社会性が大きく損なわれてしまうのです。
ゲーム障害の原因は?
なぜ、ゲームをやめることが難しくなるのでしょうか。
心理的な要因と、社会的な要因が考えられています。
まず、3つの心理的効果から説明します。
やったという脳内の快楽物質(ドーパミン)の放出
ゲームの特性上、誰でもコツさえ掴めば簡単にクリアできるようになっていますね。
クリアすると、音や画面の演出で成功を祝福され、報酬アイテムが手に入ります。
この達成感が脳内の快楽物質であるドーパミンを放出させ、脳に快感を覚えさせます。
ゲーム障害になると、このドーパミンの放出量は覚せい剤を投与された場合と同等の量となるそうです。
そのために、報酬を得ようとする衝動を制御してくれる「報酬系」と呼ばれる機能が狂うのです。
今度こそという繰り返し
ゲームはいつでも100%クリアできるというわけではありませんね。
アイテムが得られたり、得られなかったりすることが人々を熱中させます。
いつしか、成功する結果を求めて続けてしまい、ゲームを繰り返すことが止められなくなります。
止められないのは、仕事や勉学でコツコツ努力をして得られた時に感じる快楽=ドーパミン分泌時に似た感覚を、ゲームでは簡単に得ることができるからなのです。
簡単な行為なのに高い快感につながる、というサイクルに依存していくのです。
今しかないと思わせる希少性
期間限定のイベントや、ある時間にならないと現れないキャラクターや、アイテムなどがあります。
多くの人は、「限定性」のあるものに対して、より価値を感じます。
「今やらないと手に入らない」という気持ちが、ゲームをやる時間と回数を増やしていきます
以上3つのような心理的要因により、社会性、共感性、情緒に関わる領域の異常が起こります。
ドーパミンの分泌が多くなるために、ちょっとしたことでイライラしたり、怒りっぽくなったりするのです。
おとなしく優しい人だったのが、人が変わったように怒りっぽくなったり、家族に暴力を振るったりするのは、こうした異常から起きるのです。
そして、暴力的な行為に走らせる瞬間もあれば、脳内の神経伝達の機能が通常よりも低下するために、うつ状態になったり、注意力が低下するようになります。
これは、ドーパミンが大量に放出されると、影響を受けすぎないようバランスをとるために、ドーパミンを受け取る機能性を減らす現象が起きることが原因です。
ゲーム障害は、認知機能に悪影響を及ぼすので、前述した症状のように、ネガティブになったり、判断力が低下したり、学力が低下したり…といったことを生じさせているのですね。
また、心理的な原因のほかに、生活背景における原因が2つあります。
爆発的なパソコンやスマートフォンの普及という社会背景
インターネットやオンラインゲーム、SNSに依存する人が急増し、世界的に大きな社会問題となってきています。
簡単にゲーム機器を手にすることができるので、場所を問わずできるし、子どもから大人まで幅広く扱えるので、こうした社会背景がゲーム障害の患者を爆発的に増やしていると考えられています。
現実への居場所のなさ(不適応)
人は少なからず、人間関係の中で居場所を探し、その居場所に依存しています。
そうした居場所の中で、自分のアイデンティティを確立していきます。
しかし、様々な要因で、人間関係や社会においてゆるやかな依存がなくなると居場所を失うようになります。
私たちは居場所のなさに耐えることができず、特定のものに極端に依存して擬似的に報酬を得ることで、居場所を得ようとします。
このことから、依存症とは「社会のパラレルワールド」とも言われています。
その要因としては、家族の不和による愛着障害や、パーソナリティの傾向、場合によっては発達障害の場合もあります。
ゲームによる精神的な影響だけでなく、周りを取り巻く環境により、ゲームへの依存状態、つまりゲーム障害を引き起こしているのですね。
ゲーム障害の予防対策は?
ここまで述べてきたように、ゲーム障害は、日常生活や人間関係に大きな支障をきたす病気です。
ゲーム障害は、大人だけでなく子どもにも起こりうるという点で深刻なのです。
そこで、予防策のポイントをあげておきましょう。
居場所がある家庭にする
依存症の原因の一つとして先にも挙げた、「居場所のなさ」。
安心できる居場所、心が和む居場所がないために、ゲームの世界に逃げ込むという事態を防ぎましょう。
もっとも安心できるは家庭であり、家族という関係性です。
逆に言えば、家族の中の誰かがゲーム障害になったということは、家族のきずなにほころびがでている証拠だということでもあります。
上手にストレス発散
ストレス発散のためにゲームをやっていたら、ミイラ取りがミイラになって、ゲーム障害になってしまう…という可能性があります。
また、インターネットゲームなどは、随所に“ハマる”工夫が凝らされていますから、依存が高くなる確率が高いと言えるでしょう。
ゲーム以外にストレス発散の手段を用意しておきましょう。
ゲームを取り上げても治らない
依存の対象であるゲームを取り上げたり、制限ツール導入したりする…というような行動を周囲は取りがちですね。
依存症というのは、つらい現実からの緊急避難、あるいは自己治療という側面があります。
逃げ道であるゲームの世界を取り上げることで、自殺などの最悪のケースになる場合もあります。
取り上げる前に、依存する環境=つらい現実を改善すべきなのです。
無理に取り上げれば、暴力沙汰になる可能性もあります。
自分の問題を理解してもらい、自分からゲーム時間を減らす、または完全に止めるように決断させ、それに向けて家族で努力するように導いてゆくことが大切です。
専門の医療機関で治療に取り組む
WHOに認定されたということも踏まえ、れっきとした病気であるゲーム障害には、治療を専門的に行う医療機関が全国にあります。
地域の保健センター、保険所、精神保健福祉センターに相談して、医療機関を教えてもらい、早期に治療に取り組むことをお勧めします。
診断基準は?
ゲームへの依存により、家族関係や仕事を含めて生活に支障が出ている場合、その期間が1年に及べば「ゲーム障害」という病気だとしています。
世界中に何百万人もいるゲーマーは、集中的にゲームを行っていたとしても、ゲーム障害には分類されません。
ゲーマーのゲーム障害に罹る確率は「極めて低い」と指摘されています。
そうは言っても、自称ゲーマーの可能性もありますし、いずれにしても診断は専門知識をもった医療専門家が行う必要があります。
診断の際に使われる、診断材料は以下の2種類が使われます。
ICD-11による診断基準
- ゲームに伴う深刻な問題が発生している。
- ゲームのコントロールができない。
- ゲームを他の何にも増して優先する。
- ゲームにより問題が起きているのにゲームを続ける。
- 上記の症状が12ヶ月以上継続している。
DSM-5による診断基準
- インターネットゲームにとらわれて、ゲームが日々の生活の中での主要な活動になっている。
- インターネットゲームが取り去られた際のイライラ、不安といった離脱症状がある。
- インターネットゲームに費やす時間が段々増大していく。
- やめようと思っても止められない。
- 過去の趣味や娯楽への興味の喪失。
- 心理社会的な問題を知っているにも関わらず、過度にインターネットゲームの使用を続ける。
- 家族、治療者、または他者に対して、インターネットゲームの使用の程度について嘘をついたことがある。
- 無力感、ざいせきかん、不安などの否定的な気分を避けるため、あるいは和らげるためにインターネットゲームを使用する。
- インターネットゲームへの参加のために、大事な交友関係、仕事、教育や雇用の機会を危うくした、または失ったことがある。
ICDの診断基準を、より具体的にしているのがDSMのようですね。
チェック方法はあるの??
医療機関に相談する前に、ゲームに依存しているのかを疑っている時に、以下の自己診断をやっておくと、気持ちの準備もできるでしょう。
自分自身に当てはめてみても、関係する人に当てはめてみるのもアリですが、自己診断で思い詰めるのではなく、あくまでも、参考までに…
ゲーム障害の診断チェック項目
- ゲームに夢中になっている。例えば、前にゲームでしたことを考えたり、次にやることが楽しみでワクワクしますか。
- もっと満足を得るためには、ゲームをする時間を長くしなければならないと感じますか。
- ゲームをする時間を制限しようとしたり、完全にやめようとしたが、うまくいかなかった事が何度かありましたか。
- ゲームをする時間を短くしたり、完全にやめようとした時、落ち着かなかったり、不機嫌やイライラを感じますか。
- ゲームを始める前に考えていたよりも、長い時間オンライン状態でいますか。
- ゲームのために、家族や友人など大切な人との関係や学習や仕事の機会を棒に振るようなことがありましたか。
- ゲームにはまっていることを、周囲の人に隠すために嘘をついたことがありますか。
- 嫌なことや自分が抱える問題や不安、罪悪感、絶望的な気持ちから逃れるための方法としてゲームを使いますか。
以上の8項目中、5項目以上のチェックで「ゲーム障害」の疑いがあります。
また、チェック項目の他に、以下のことがゲーム障害に共通してみられる傾向のようです。
- ゲーム以外の人間関係に対する興味の無さや低下
- 生活に関するあらゆる行為を「無駄な時間」と感じる
医療機関で使われる診断基準に基づいているので、自己チェックに使えるかと思います。
おわりに
ゲーム障害を軽く考えていると、一生、心を満たされない人生を歩むことになります。
病気として認定された今だからこそ、自分がゲーム障害なのかも?と思う方も、家族や大切な人がゲーム障害なのでは?と思う方は、医療機関や地域の相談窓口を利用するべきです。
心が満たされる環境を整え、ゲームに逃げることなく過ごせるには、誰かしらの支援が必要で、一人で悩まないことが大事なのです。
ゲーム障害について理解をもつ方が増えて、様々な人たちが住みやすい世の中になりますように…